土曜日。


小洒落たカフェに行くと、
父さんがこっちに向かって手を振っていた。


軽く舌打ちをしてそっちまで歩く。


父さんの座るテーブルの上には珈琲があった。


「よぉ。楓、元気か?」


「……見りゃ分かんだろ」


ドカッと向かいの席に座って長くもない足を組む。


店員がやってきて注文を聞くから、「珈琲」と短く言った。


「楓は大人だなぁ。父さん、お前くらいの歳の頃は
 珈琲なんて飲めなかったぞ」


「俺、大人だよなぁ?」


「ああ、そうだな」


父さんがニカッと笑う。


笑うとえくぼが出来て、昔の俺みたいだと思う。


昔は俺もよく笑ったな。
バカみたいに、何にも知らないで。


「家を出ようと思ってる」


俺が言うと、父さんの顔色が変わった。


笑顔が途端に剥がれ落ちていく。


ついに真剣な顔つきになると、
指を交差させ、その手に顎を乗せた。


「それはダメだ」


「なんでだよ。さっき大人だっつったろ」


「大人らしいとう意味だ。お前はまだまだ子どもだよ」


「なんだよ、どこがガキなんだよ」


「そういうところだ」


「なんだよ、そういうとこって!」


研修中と書かれた名札をつけた店員が
俺の珈琲を持ってきた時、
俺はバンっとテーブルを叩きつけて立ち上がった。


店員がびっくりして手を引っ込め、
そそくさといなくなる。


周りの客も訝しげに俺を見つめていた。