じっと中を覗いていると、
中からさっきのおっさんが出てきた。


「何してんだ?君」


驚きもせずに、おっさんは言う。


見ていたことがバレて少し気まずさを感じて、
鼻の頭をかいた。
舌打ちをして視線を逸らす。
するとおっさんが俺の顔を覗き込んだ。


「ここに何か用か?」


「……ここ、何の施設?
 おっさん仕事してんの?」


「ここは介護施設だ。おじいちゃんやおばあちゃんの
 世話をするのが俺の仕事だ。
 興味があるなら見ていくか?」


おっさんは微笑んだ。
その笑顔が真っ直ぐすぎて吐き気がする。


介護施設だったのか。
おじいちゃんおばあちゃんの世話ってことは、介護士?


「い、いいよ!別に興味なんかねぇし!
 あのなぁ、おっさん。俺は文句を言いに来たんだよ!」


「文句?」


「そうだよ!人のモンに勝手に触んじゃねぇ!
 壊したら弁償だぞ、弁償!」


チャリを指差しておっさんを睨みつけると、
おっさんは頭をかいて頷いた。


「それは、悪かったな。壊れてたら弁償するから、
 ここに連絡しろよ」


そう言って名刺を差し出してきた。


俺が受け取らないでいると、
俺の手に無理やり押し込めてきた。
それをぐしゃっと握りつぶし、渋々ポケットに突っ込む。
それを見たおっさんは満足そうに頷いた。


「用は済んだね?早く帰りなさい」


「言われなくても、帰るよ!」


「送って行こうか?」


「チャリがあるからいい!」


チャリに跨り、一度おっさんを見る。


真っ直ぐな瞳で見つめられると
なんだかイライラしてくる。


こんなやつ、関わらないほうがいい。


聞こえるように舌打ちをして、
ペダルを思い切り強く踏んだ。


おっさん、まだ見てんのかな。


なんか知らないけど、見てるような気がする。


気持ちわりぃやつ。


あんなやつもいるんだな。


でもなんか、どこかで会ったような気もするのは気のせいか?
……あんなやつ、会ったら絶対覚えてんのに。