おっさんは俺を冷ややかな目で見下ろしたかと思うと、
急に笑顔になって振り返った。


気付くとそこには車椅子に乗った爺さんがいた。


「さあ、宮本さん。車椅子を動かしますよ」


おっさんがその爺さんに向かってそんなことを言う。
そうして車椅子を後ろからゆっくりと押した。


なんだこいつ。


おっさんは一度車椅子を止めて振り返ると、
俺の方を見た。


「君、その制服中学生だろ。
 こんなところにいないで帰りなさい」


「う、うっせぇな!関係ねぇだろ!」


「お母さんやお父さんが心配するぞ」



父さんなんかいねぇよ……。




そう思ってイライラが募り、
唇を噛みしめる。


おっさんは満足そうに笑うと
車椅子を押して行ってしまった。


綺麗に隅の方に寄せられたチャリを見る。
そして舌打ちをした。


ああ、気持ちわりぃ。
見ず知らずのおっさんに触られた。


吐き気がするけれど、そのチャリに触れて思いつく。


あいつに文句でも言ってやらなきゃ気が済まねぇ。
つけてってやろうか。







チャリを引いて歩き出す。


ゆっくり、ゆっくりと歩いて行くそのおっさんは
時折爺さんに話しかけながら車椅子を押していた。


あの爺さんはおっさんの父さんとか?
でも、さん付けで呼んでいたから違うか。


じゃあ誰だ?


爺さんとおっさんの関係性も謎だし、
こんな昼間からウロウロしているっていうのも謎だ。



仕事してねぇのか、あのおっさん。









だいぶ歩いた。
随分歩いた気もするけれど、
距離的にはそんなに行ってない。


町から少し外れた場所まで来た。


おっさんはある建物の前で一度止まった。


見てみると、そこは小さな建物で、
【桜えん】と書いてあった。


何かの施設か?なんだここ。




門を開けて車椅子を押す。


玄関から中に入って消えていった。


玄関まで来て足を止める。
中はよく見えなかった。




病院……なわけないか。