車の中はしんと静まり返っている。


ケータイをいじって、仲のいい智也にメールを送る。


【三者面談、まじでかったりぃ】


するとすぐに既読マークがついて
【どんまい】のスタンプが送られてきた。


さらにスタンプを送ると、
隣から手が伸びてきて、その手がケータイを掴んだ。


「何すんだよ」


「ケータイはやめなさい」


母さんが前を向いたままそう言った。


……うぜぇ。


母さんの顔がいつになく真剣なのが分かって、
どうせまた説教が始まるんだろうと思う。


勢いよく母さんの手をはらうと、その手は宙を彷徨った。


「うっせぇな。邪魔すんなよ」


「うるさいって何よ。今は進路の話。
 どうして白紙なんかで出したの?
 あんた、行きたい高校とかないわけ?
 そろそろ決めないと、受験勉強だってあるんだからね」


「うぜぇ。高校なんか行かねぇよ」


「何言ってるの!高校は出とかないと、
 就職だってそうそう出来ないんだからね!」


「いいだろなんだって。適当に働いて、
 こんなとこ出てってやる」


「楓!」


ちょうど赤信号で車が止まり、
母さんが俺の方を見る。


なんだよ、そんなにキンキン怒鳴るなよ、うるせぇな。


別に俺がどうしようと勝手だろ。


あー、早く義務教育なんざ終わらせてぇ。
そうしたら、俺は晴れて自由の身だ。


こんなとこ、もううんざりだ。
どこか遠くに行きたい。
誰も知らない、遠くに。


それは何故か。