学校を出て家とは反対方向に歩いた。
初日だけ遠く思えたけど、
実は学校からもそんなに離れていない場所にある。
その建物に着くと、別な職員らしき女が外に出ていた。
若いな。俺と同じくらいか?
俺がまじまじとその女を見つめていると、
女は俺に気付いて首を傾げた。
そしてすぐにああ!と言って顔を輝かせた。
「中にどうぞ。待ってたわ」
「なっ、別にてめぇに会いに来たわけじゃ……」
「まぁ。あんた本当に口が悪いのね」
「あ?てめぇ喧嘩売ってんのか?」
栗色の長い髪をハーフアップに結んでいるこの女は、
くりくりした大きな瞳で俺を眺めた。
口元に浮かぶホクロに妙に視線を奪われる。
女はジャージを着ていて、裾を腕まで捲り上げていた。
「あんた、楓くんでしょう?」
「だったらなんだよ」
「よし、楓。私についておいで」
女はニコニコ笑うと、俺の手を引いた。
その手を振り払って睨みつける。
なんで、この女……。
「なんで呼び捨てなんだよ」
「だって、あんたは私の弟みたいなものだしね」
「はぁ?弟?」
なんで弟?同じくらいだろ。
そこでなんで俺の方が弟になるんだよ。
ていうか、弟になんかなる気はねぇし、
姉だとも思わねぇ。
どういう意味でそんなこと言うんだ。
「いずれ分かるわ」
女はそう言ってもう一度俺の手を引いた。
今度はそれを振り払う気力もなく、
呆けたまま手を引かれ歩いた。
施設の中に入ると、この間と同じで
独特な匂いが充満していた。
相変わらず爺さん婆さんが多い。
車椅子を使っている人や
杖をついてよろよろと歩いている人もいれば、
普通の人のようにぴんぴんしている人もいる。
みんなそれぞれここで生活しているんだ。
ここにいる人たちには、家族はいねぇのか?