「食べるの抑えなくても大丈夫だったと思いますけどね」

私たち二人以外に、たったひとりいたお客さんが、椅子をかたんっと音をならしてお店を出ていくのを何気なく視線にいれながら、伊澤さんのほうは向かずにそう言う。

……いっぱい食べる男性が好きって女性多そうだし。私は今までの人によく思われなかったから、隠してたけど。

「そうっすか?
廣川さんはどっちがいいです?よく食べる男と、あんまり食べない男」

「え?私ですか?」

少し冷めてしまって一気飲みできる温度になった味噌汁を、こくこくと小気味良く飲んでいると、思いもよらない質問がきて、思わずぽかんと伊澤さんを見つめる。
今まで忙しなく箸を動かしていた手を止め、なぜか少し真面目な顔で私を見つめる伊澤さんに、戸惑いつつも言葉を探した。


この人今わりとすごいこと聞いてきてない?だって私の好み関係ある?私がどっちがいいかなんてそんなこと興味ある人類がこの世にいるの?

戸惑ったあまり、やけにスケールの大きい訳のわからないひとりごとを、心のなかでつぶやく。

奥でカチャカチャとなにやら作業をしている店員さんひとりを除いて、ふたりきりになった空間に少し間ができてしまって、慌てて返事をする。

「……そうですね。私は食べるのが好きなので、一緒に食べてくれると嬉しいです」

「そうっすか。なら、よかったです」

安堵したようにやわらかく笑って言った彼の言葉が、予想外に響いてしまった自分に困惑した。