「あれで抑えてたんですか?」
「あれ、そう見えませんでした?」
彼は飄々とそう言って、空になったコップに水を注いだ姿を見て、思わずまたちいさく吹き出す。
……そもそも合コンのときもつまらなそうにしてたし、彼女とかほしくて来たわけじゃないのかな。でもその割には友達の助言を素直に聞いて少食を装ってたみたいだし。
黙々と食べ進めて、付け合わせのサラダを頬張った伊澤さん。そんな姿を見ながら、自分の興味が目の前の牛丼よりも彼の方に向いていることに少し動揺する。
「伊澤さん、あんまり楽しそうにしてなかったですし、てっきり数あわせで連れてこられたんだと思ってたんですけど、食べるの我慢したりはしてたんですね」
そう言った私に伊澤さんは、口に入っていたものをごくんと飲み込んで、ああ、と思い出したように呟いた。
「たしかに自分から参加したいって言ったわけじゃないですけど、最近仕事以外では本当家出てなくて、そろそろ人と関わらなきゃやばいかなっていう危機感があったんでちょうどよかったです」
「なんですかそれ」
存外真剣な顔をしてそんなことを言うものだから、また小さくふきだしてしまう。
そこで私はとうとう今まで食べるのを我慢していたことがなんてことないと思えて、どんぶりに残っていたお米を一気にかきこんだ。

