「大丈夫ですか?もう入らないんなら俺が片しますけど」
「……いえ、まだ全然入るので大丈夫です。なんならデザートにケーキとかもいけちゃいます」
下を向き固まってる私を、満腹で箸が止まったのだと解釈し、気を使った言葉をかけてくれた伊澤さんに向き直る。
私の言葉に少し目を見開いたあと、また頬の高い位置にえくぼをつくってふわっと微笑んだ伊澤さん。そして彼はなんてことないみたいに再び美味しそうに箸を進めだした。
「いいっすね。やっぱり好きなものは我慢しないに限るな」
口の右端にお米を一粒つけながら、言葉とは裏腹な無気力なトーンでそう言った彼を見ていると、無意識にふっと笑みが浮かんだ。
……そんなこと言われたら、そんな美味しそうに食べるところをみていたら、なんだか今まで悩んで恥ずかしがっていたのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
突然笑いだした私に、伊澤さんは箸をとめて不思議そうにこちらを向いた。
「伊澤さんはあの場でもべつに我慢してなかったですよね?」
「え?けっこう抑えてたんですけどね。一緒にいたやつに“いつもみたいに食べてたら引かれるぞ”って言われて。まあばくばく食べて変な空気にするのもあれかなと思ったんで」
不思議そうな顔のまま平然と言った彼にまた吹き出してしまう。
ご飯もおかわりして、唐揚げも追加で頼んで、ビールも無くなればまた頼んでて、あれで抑えてたなんて、どんな胃をしてるんだろう。人のこと言えないけど。
そんなことを考えて笑い続ける私に、伊澤さんはついに眉をしかめて首をかしげた。

