私の言葉にふと動きを止めて、その無表情を少し驚いたように崩して私を見つめる伊澤さん。
数拍空いた後に、うーん、と私から視線を外して箸を置き、とんとん、と、指先で机を鳴らす。
「……本音と建前、どっちがいいです?」
「……本音で」
……予想の斜め上の質問がきたな。真剣だけど、きっと深刻にならないようにしてくれてるんだ。
ゆっくりと言葉を選ぶように言った様子に、彼のその独特な優しさを感じ取って、思わず下を向く。深刻にならないように、少し和やかに“了解しました”と言った伊澤さん。
膝の上で両手を揃えてぎゅっと握って、それ以降の彼の言葉を待った。
「飲み会のときから思ってて、今もそうなんですけど、美味しそうに食べてる姿が予想外に刺さったんで、喜ぶことはしても、引くことはないですね」
真っ直ぐに言った彼に驚いて、思わずばっと顔を上げて彼を見る。そんな私の様子に、伊澤さんはまた頬の高い位置にえくぼを作って、楽しそうに笑って、私に追い討ちをかけた。
「ちなみに建前の方は、“俺はそれ二杯食べたあとにコンビニのケーキ全制覇できる自信あるんで、廣川さんにではなく、そこまで食える自分に引くかもしれません”です」
「……伊澤さん、私の悩みを吹き飛ばす天才なんじゃないですか?
予想外に刺さったのはこっちの台詞です……」
照れ隠しにふざけた言い方をして、両手で顔を覆い隠す私を見て、彼はまるでいたずらが成功した子供のような表情で、ふはっと笑いだした。
……楽しそうに笑っちゃって。こっちの気も知らないで。

