僕は苛立っていた。

耳を突き刺すような蝉時雨もそうだが、
フライパンの上で焼かれているかのような灼熱の陽射しが僕の白くて薄い皮膚を焦がして、有りもしないであろう日陰を探して重いペダルを漕ぎ進んでいるからだ。

鬱陶しくも肌に流れる汗は安直にお湯と化し、もわっとした蒸気が灰色のTシャツの中に充満すると、太陽によって表面がドロッと溶けたアスファルトの陽炎みたく僕の脳みそはじわっと歪んできた気がした。

次第に自転車の速度が落ちていくのは自分の目にも明らかで、思い出したように時折立ち漕ぎをしてみるが、期待は期待のままで、頑なに現実との整合性から外れそうな気配は感じない。

ペダルが鉄球の足かせみたいに動かなくなる。僕は観念したかのように地面に左足をついて真っ白な太陽を見上げてこう思った。

「日本中の坂の半分はきっと上り坂に違いない」と・・・・