会社帰りの人や買い物帰りの人、散歩中の人
午後11時を回ろうとしている
街はまだ明るい

街角を曲がると一気に静かになる住宅街

会話がないまま私の住むアパートが目に入った

どこまで着いてくるんだろ

「…相沢、家どこなの?私んちもうすぐそこ…」

「この辺夜なのにまだ蝉鳴いてるんだな」

相沢は私の話を途切らすように言った

耳をすますと近くで聞こえてくる
蝉の鳴き声

「………あー、蝉はね夜になっても気温が下がらなかったり街中の明るさで夜中でも鳴くんだよ」

「…へー。何でそんなの知ってんの?実は虫博士?」

「やめて、虫は嫌い。昔、子どもの頃父に聞いたのよ」

父も虫嫌いで男のくせに虫を見るたび
ギャーギャー騒いで母が無言で退治していた

騒ぐのも理解出来る。あんなに足がいっぱいある
生き物を見ると今でもゾッとする

虫なんていなければいいのに。

そういえば、子どもの頃、このセリフを父に
言った気がする