「もし、桜さんの恋人があの主人公の恋人のような人だったら、どうしますか? 恋人じゃなくても、好きな人でもいいです」
「それは……」
尚のことを言っているんですか? と、桜は心の中で奏音に声にならない質問をしてしまった。
同時に、こんなときに尚のことが浮かんでくる自分に嫌気がさす。
隣には、自分を好きでいてくれる彼がいて、自分もその彼を受け入れようと決めたのに。
簡単に、高倉尚という存在がその決心をさらってしまいそうになる。
それも、一瞬で…………。
だから、その考えを消すために、桜は彼の名前を声に出した。
「奏音さんはきっと望まないと思うので、私は復讐はしません」
「……そうですか。私も、桜さんが望まないと思うので、復讐はしないですよ。他の方法で幸せになれる生き方を見つけます」
奏音は、桜の目をじっと見つめて、その頭を撫でる。
その瞳は、桜のことを全て分かっているようだった。
だからあえて、そんな質問を、『好きな人』という言葉を使って桜にした。
まるで、確かめるかのように、桜の気持ちを確かめるかのように。
奏音の中で一区切りをつけるために。



