「映画と言えば、ポップコーンじゃないですか」
と、奏音は塩味とキャラメル味のポップコーンをどこからともなく持ってくる。
反対の手には奏音の雰囲気には似合わない炭酸のジュースもある。
「そうですね」
桜は、普段の大人っぽい奏音ではなく、どこか気の抜けている無邪気な奏音につい笑ってしまう。
「お茶やコーヒーが良ければ言ってくださいね。ほかにも、果物のジュースとかもあるので」
「はい、ありがとうございます」
二人は映画を観る準備を終えると、テレビの前にあるソファに移動して、その腰を下ろした。
「あっ……」
「ひっ」
どちらの声であろうか、映像に合わせて、そんな声が聞こえてくる。
「あっ、だめ……そっちは」
そう主人公に向かって話しているのは桜の声で、その手は緊張のせいで汗で濡れている。
しかも、その汗はあのいやあな空気の時に出てくるもので、2人の心臓はその映像によっていつもよりも断然早く動いていた。
「ひょおっ」
っと、桜の力の抜けた何とも言えない声がリビングに響き渡る。
「大丈夫ですか? 怖くないですか?」
「あ、はい」
そう言った桜だが、やはりホラー映画というものはそれなりに怖いもので、自分の心臓の音がはっきりと聞こえてくるくらいその映像に緊張している時、そっと柔らかい手が桜の手を包んだ。
それは、まるでこの映画とは真逆の天国のようなもので、すうっと桜は落ち着きを取り戻す。



