「すごく、優しそうなご両親ですね」
「まあ、確かにいつもあんな感じで、なんというか世間離れしている感じですよね」
2人のことを話す時の奏音の顔を見ると、その緩んでいる口元から、いかにこの家族の仲が良いのかが伝わってくる。
桜は、それを見ていると自分まで同じような気持ちになっていくのが分かった。
「桜さん。夏休み、僕の大学が夏休みに入ったらパリに行きましょう」
奏音は突然桜にそう言い、なんのことか見当もつかない彼女は目をぱちくりとさせて奏音を見ている。
「ね、良いでしょう? 僕たちの始まりの地をもう一度旅したいです」
奏音は、桜の手を軽く握ってまるで何かを守るように片方の手でそれを包んだ。
なぜだろうか、その手から伝わってくるものは愛おしさともう一つ、親猫がこれから独り立ちする子猫を見る眼差しのような、そういったものを桜は感じていた。
「いいですね」
「ええ、必ず行きましょう。……さて、これから何をしましょうか?」
「何がいいですかね?」
「うーん……なんでしょうね。あ、映画でも観ますか?」
奏音は立ち上がりテレビの下の棚の扉を開けると、そこにはびっしりとDVDやBlu-rayが並べられてあった。
そのジャンルは様々で、恋愛からホラーまでありとあらゆるものがある。
オペラまであった。
「どれでも、いいですよ」
「どれがいいでしょう」
「じゃあ、これにします?」
「そうですね」
奏音は、あるDVDを手に取ると、慣れた手つきでそれを準備していく。
「あ、そういえば」
と、なにかを思いついたようで、グーにした右手で左の手のひらを叩くと、奏音はキッチンへと向かう。



