「大丈夫ですよ、今まで通りで」
そんな桜を見ていた奏音は、桜をリラックスさせようと彼女の方を向いて笑顔を見せる。
とは言うものの実際は、奏音本人も非常に緊張しており、昨日の夜はいつもよりも倍の時間湯船に浸かって、その立った神経を落ち着かせようとしていた。
しかし、やはりそれでも好きな人を親に会わせるということはそんなに簡単に考えられるものでもなく、奏音は結局あまり寝られていない。
実際、その目の下には薄っすらと隈の姿まで確認できる。
「はい、そうですよね」
桜にはその彼の隈を見る余裕もなく、奏音の言葉に桜ははにかみながら返した。
そんな時だった、奏音のスマホに一件のメールが届いた。
奏音はスマホの振動でそれに気付くと、桜の横でそれをさっと確認する。
その画面を見る奏音の顔は一瞬で真顔になり、桜はその変化をじっと見ていた。
「何かありましたか?」
「いえ、なんでもないですよ」
奏音はスマホをすぐに仕舞った。
その後、何かを考えていたのか奏音は静かな電車の中で同じように声を出さずに、ただ桜の隣に立って過ごすのである。
その隣に立つ桜は、時折髪をいじったり、時々窓に映る自分の姿を確認して、身を整えていた。



