音楽のほとりで


「ねえ、これでいいと思う?」

と、桜は鏡の前に立ってワンピースをひらひらと揺らし、ミイに話しかける。

いつもよりもピンクがかった化粧をしており、そのワンピースもいつもよりも清楚だ。

この初夏にふさわしい爽やかなライトグリーのワンピースは、見た目が美しい。

「みゃあ」

と、ミイは鏡に映った桜を見ながら鳴く。

桜はしゃがみこみ、ミイの頭に軽く触れて撫でると、ミイは桜にすり寄って喉をゴロゴロと言わせた。

「初めて会うんだもの。緊張しちゃうよ」

と、ミイを抱っこして、その顔を自分の額に擦り付ける。

ミイはまるで、ぬいぐるみのように一切動かずに、桜の思うままにされているが、その雰囲気からは嫌そうな感じはしない。

むしろ、もっともっとと言っているようだ。

「もう、行かなきゃ遅れちゃう」

部屋の中に置いてある時計を見ると、ミイを置いて鞄を持って部屋を出た。

その後をミイもついてきて、玄関まで桜を見届ける。

桜は、ミイに手を振ると玄関から外に出た。








「こんにちは」

「こんにちは」

桜の家の最寄りの駅のベンチで、何かの本を読みながら待っていた奏音は、桜の姿を見つけるとすぐにその本を仕舞い桜に顔を向ける。

「いつもと雰囲気違いますね」

「変、ですか?」

「いえ、とても綺麗です」

「ありがとうございます」

どこか他人行儀な会話をして2人は電車へと乗り込むと、桜は緊張が一気に高まる。

実は、異性の親とは今までに尚の両親としか会ったことがなく、こういった経験もしたことがないため、どういう風に振る舞えばいいのかが全くわからない。