音楽のほとりで


「ちょっとそこで飲み物買ってくるから待ってて」

尚はそう言うと、桜をベンチに座らせる。
桜は、ベンチに座るとパリの空を眺めた。

雲が風に押されてゆっくりと動いている。

そんな雲を、桜は目を細めて眺めている。

少しして、尚が走って桜の元に戻ってきた。

「はい」

そう言うと、ペットボトルを一本桜に渡した。

「ありがとう」

「いえいえ。日本では、元気に過ごしてた?」

「何事もなく過ごしてたよ、尚は?」

「僕も同じく」

「そっか、それならよかった」

「桜は、今はピアノ教えてるんだっけ?」

「そう、小さい子供からお年寄りまでいろんな人に教えてる」

「楽しそうだね」

「うん」

「桜、いつ日本に帰るの?」

「明日には帰るよ」

「そっか、…………また暫く会えなくなっちゃうね。あ、でも、僕来月1ヶ月帰国する予定なんだ」

「そうなの?」

「うん。そういえば、この辺に美味しいクロワッサン売ってるお店かあるみたいだから、行ってみよう」

尚はそう言うと1人立ち上がり、桜に向かって手を差し伸べた。

ピアニストらしい大きいけど、奇麗な手。

「もう、子供じゃないんだから」

そう笑って言いながらも、桜はその手を握った。

すると、尚もぎゅっと握り返した。