楽器を持った人たちが次々と現れ最後の人がステージに現れて全員がこちらを向いたのち、胸を張った高倉尚が登場してきた。

次に現れた指揮者と堂々と握手を交わす。

そんな彼を、名前には少し似合わない西洋がかったその顔を、彼女はじっと見つめている。

瞬きもせず、彼女は沢山いるステージ上のただ1人の人物だけを見つめている。

すると、その視線に気付いたのであろうか、高倉尚が彼女の方に目を向けた。

すると、一瞬彼女に向かって笑みを浮かべる。

その一瞬だけ、高倉尚から堂々とした雰囲気が消え、柔らかく穏やかな空気が流れた。

彼女も、それに応えるように口角をキュッとあげる。

そして、高倉尚が椅子に座ると、やがて演奏が始まった。












「流石高倉尚でしたね。なんというか、あのピアノの迫力、しかしその中にある繊細さ。世界の高倉尚と言われるだけある」

「そうですね」

そう返事をした彼女の表情は、どこかに影があるように見えた。

「そうだ、この後お時間あります? 良ければお食事でも」

「ええ、いいですよ」

外国にいると、同じ国の人間というだけで仲良くしてしまうものだから、不思議だ。

もし日本にいるなら絶対に断るのに、と彼女は心の中で思う。

「何か食べたいものあります? あ、そうだ。せっかくだしクリスマスマーケットに行きましょうか」

「それもいいですね」

外に出ると、コンサートが始まる前よりもだいぶ冷え込んでいた。

もう、空も暗くなっている。

フランスの冬は、暗くなるのが早い。

しかし、この街の明るさはその夜には負けずに光り輝く。

クリスマスマーケットは、このホールから歩いてすぐのところにあった。

日本とはまた違った本場のクリスマスマーケットを見るのは、彼女にとって2度目だった。