音楽のほとりで


「ねえ、私どうしたらいいと思う?」

桜は、飼い猫のミイに話しかける。

美しいグレー色をしたロシアンブルーだ。

ミイは、にゃあと言ってベッドの上に座っている。

動かずに桜を見ていた。

「一度、奏音さんと会ってみようかな……」

桜が呟くと、再びミイはにゃあと鳴き、桜の部屋から出て行った。

桜は、渡された名刺とスマホを手に取ると、そこに書かれてあるメールアドレスを入力してメールを送ってみる。

すると、すぐに返信が来た。

「明日の夕方とかどうかな……」

桜はスケジュール帳で自分の予定を確認する。

「はあ、もうどうしたらいいのか分からないよ……」

もういっそのこと、どちらにも付き合えないと言ってしまおうか。

でも、桜の心の奥底にある結婚願望がそれを阻止させる。

悩んだ結果、とりあえず会ってみようと決断した桜は、メールを返した。

ニャアと言いながら、再び部屋に入ってきたミイに話しかける。

「ねえ、ミイ、私尚のこと男の人として好きなのかな? たしかに尚がいない時間とか、尚がどんどん遠い存在になっていくのは寂しかった。でも、それが恋か分からないの」

考えてみると、尚が誰かと付き合ったということを一度も聞いたことがないし、見た事もない。

尚は、あのルックスのおかげで昔からモテていた。

だけど誰からの告白も受けなかったということは、桜のことを好きだったからで、そう考えると桜は胸が苦しくなってくる。