話を進めていく奏音の話を聞いていた尚は
「つまり、何が言いたいんです?」
と、今まで桜が聞いたことのないような低い声を出す。
尚は、桜の腕を掴んで話そうとはしない。
「私なら、日本にいるし、もし桜さんが日本にいたいなら私の方が彼女を幸せにできると思っただけですよ」
それに対して、あくまでも冷静に答える奏音は、余裕そうな表情を浮かべている。
「それは、つまり貴方が桜を好きだということで合っていますか?」
「はい。あの晩彼女に一目惚れをしました」
「あの……」
桜は、黙っていることに耐えきれなくなり声を出した。
「桜は喋らないで」
しかし、それは尚の言葉によって遮られる。
「桜さん、考えてみてください。これ、連絡先です」
奏音は、名刺の裏にアドレスを書いて桜に渡した。
桜はそれを、困惑気味に尚の顔を見ながら受け取る。
「では私はここで」
奏音はその場から立ち去った。
すると、尚は桜の方を向く。
「……一旦、カフェ行かない?」
先ほどとは違い、落ち着いた声でそう話す尚に桜は少しだけ安心した。
「うん。そうしよっか」
尚は、桜の前を歩き、桜はそんな尚の背中を見ている。
その背中からはいつもの無邪気な雰囲気も、ピアニストの時の堂々とした雰囲気も何も感じない。
桜は、どうしたらいいのか分からず、とりあえず尚のあとをついていった。



