音楽のほとりで


「皆さま、今日はスペシャルゲストに来てもらっています」

尚は、椅子から立ち上がると観客の方を向いてそう言う。

すると、その言葉が終わると同時に、タキシードを着て背筋をピンと伸ばして前を向いて歩くルイの姿が現れる。

その堂々とした姿は、桜がフランスで見たその姿とは比べ物にならないほど立派なものだった。

その姿は、桜の古い記憶の中にあるような気もしていた。

「僕の友人で、僕の尊敬するピアニストです。きっとご存知の方もいらっしゃるでしょう。では、彼の独奏と、彼と私による連弾を1曲ずつお聴きください」

そう言うと一旦、尚は舞台から消えて、ルイ1人になる。

ルイは、深くお辞儀をしてからピアノに向かう。

ルイの演奏が始まった。

桜がふと南の方を見ると、静かに落ちる涙が頬を伝っていた。

きっと、南はこの瞬間を夢見ていたに違いない。

いつかいつかと、心の中で彼のことを励まし続けて、そうして今日それが叶ったのだ。

その涙は、止まることなく1つ2つとどんどんと重力に従って落ちていく。

桜は、そっと南の太ももにハンカチを置いた。

長くもなく短くもない曲が終わると、ピアノが一台追加された。

そして、尚が再び舞台へと現れる。

尚が座ると、2人は顔を見合わせてそのピアノの音を鳴らした。

それは力強く、2人のピアノの音がまるで絵の具のように混ざりあい、お互いのピアノの良さをうまく融合させていた。

時折目配せしながら弾く2人は、まるで子供の様に楽しくて仕方なくてそれを弾いているように見えた。