「おはよ」
「おはよう」
今日は桜の休みの日であったために、2人は出かける約束をしていた。
尚はさりげなく桜の手を握り、桜の横を歩く。
「手……」
「恋人なんだからいいでしょ」
笑う尚の顔に、つい見惚れてしまう桜は、尚にばれないうちにさっと顔を反らす。
確かに、今まで好きという気持ちはあった。
だけれど、多分異性として見た事はなかった。
「ちょっと、先に楽器店行っていい? 見たい楽譜があるんだ」
「うん、私もちょうど買いたいものあったから」
ちょうど、生徒の音楽ノートが切れていたことを思い出した桜。
それと同時に、もし、尚と結婚することを選んだ時のことが頭を過ぎる。
今までピアノを教えていた生徒と別れなければいけないということ、日本でピアノを教えられなくなるということ。
今の桜には、なにが一番いい選択なのか分からない。
そんなことを考えていると、口数が減ってしまう。
「桜、また考え事?」
「ちょっとね、でも大丈夫」
まだ先の話、と自分の中で一旦終了させる。
とはいうものの、尚が日本にいるのはあと29日で、その間に答えを出さなければならないことは分かっていた。



