桜は、その視線に気付くとさっと外してしまう。
「それでもついて来てくれる人がいるならって感じですね。僕も1人だと寂しいんですよ、特に休日なんか、1人でカフェ行ったりしてて。隣にカップルがいると、いいなあなんて思ったり」
「まあ、尚くんならモテそうなのに」
「僕だって、誰でもいいわけじゃないです。やっぱり、好きな人と一緒にいたいですね」
「そうよねえ」
「本当は…………桜について来て欲しい」
尚は、じっと桜の目を見つめた。
桜は、さっきのように目を逸らすことができない。
「え?」
「あら」
「私に……? なんで……?」
「なんでって、桜が昔から好きだからだよ。分からなかった?」
「……ごめん。でも……」
桜には、大切な生徒がいる。
たくさんの人が、桜のレッスンを待っていて、桜もそれが今は楽しい。
「ちなみに、私は気付いてたわよ。私は反対なんてしないし、多分お父さんも反対しないから、あとは2人で話し合いなさい。尚くん、グッドラック」
「ありがとうございます、おばさん」
すると、桜の母はリビングから出て行った。
「あ、ちょっとお母さん」
部屋には、桜と尚の2人きりになり、その雰囲気は非常にぎこちない。
「いきなりごめん。いつか言おうとは思ってたんだ」
それを聞いた桜は、言葉を選んでいるかのようにゆっくりと話し始める。
「私、………尚が遠くに行ってしまったから寂しかったの。遠い存在になったみたいで。でも、それが恋なのかはまだはっきりとは言えない」
「1ヶ月、付き合ってみない?」
「1ヶ月?」
「そう。そうしたら、その気持ちがなんなのか分かるかもしれないよ」
「……うん、そうだね」



