音楽のほとりで


桜は、心の中にものを消したいと必死に願い、兎に角別のことを考える。

「今日は奏音さんがピアノ習いたくて来たんだから、早く食べてピアノ室行かないと。時間も無くなっちゃう」

「あら、そうだったのね」

「そうだよ。って言っても奏音さんの方が音楽の知識あるし、私よりも何倍もすごい人なんだけどね」

桜は、必死に頭の中を奏音で埋め尽くそうと、彼の話題を出す。

尚ではなく奏音の話題を。

「いえ、そんなことないです」

「大学で音楽教えるなんて、普通の人にはできないじゃないですか」

「まあ、すごいのね」

桜の言葉を聞いた桜の母は、当初同じようにその事実を知って驚いた桜と同じ表情をして、同じように驚いている。

その姿を見て、流石親子だなと、つい奏音は笑ってしまった。

「僕なんて、下っ端の中の下っ端です」

あくまでも謙虚に振舞う奏音は、どこかマニュアル的な受け答えのようにも感じさせる。

「私の方が、下っ端の中の下っ端の中のさらに下っ端ですよ、本当に私でいいんですか?」

「桜さんが、良いんです」

と、奏音は優しく微笑むとそう言った。

3人がケーキを食べ終えると、桜は「じゃあ、行きましょうか」と言い、目的の部屋へと移動した。