「わたしね、芹沢さんのこと悪いなんて思わない。だってそれくらい勇也のことが好きってことでしょ?好きな気持ちに嘘がないなら、勇也が芹沢さんを選んだなら、仕方ないって思う」


そこでいったん飲み物を口に含む。


「でもね、勇也を傷つけるようなことは言わないでほしい。『死ぬ』なんて言葉簡単に使わないでほしい。勇也は中2のときに実のお母さんとお兄さんを亡くしてるから」

「そんなっ」

「知らなかったよね。勇也全然そんなこと言わないから。
亡くなったときもね、わたしはすごく泣いたの。好きな人だったから。それにわたしにとっても家族みたいなものだったから。でもね、勇也は全然泣かなかった。むしろわたしを慰めてくれた。きっとつらかったはずなのに、泣きたかったはずなのに、勇也は一度も涙をみせなかった」


なんの言葉も発せられないのか、かたまったままの芹沢さん。


「こんなことわたしから言われたくないかもしれないけど、どうしてもお願いがあるの。勇也の前でもう二度と死のうとしないで。命を粗末にしないで。それを約束してくれるなら、わたしはもう何もいわないから。お願いします」

わたしは固まったままの芹沢さんに深く頭を下げた。