『 …クラル。 』




彼は、人の名前のようなものを口にしてから『 僕の名前。 』と言って微笑む。


この人は、クラルさん、と言うんだ。

私がもう一度名前を呟くと、彼は優しく『 そうだよ。 』と微笑んだ。



…なら、私の名前はなんだろう。

名前を聞いただけで、クラルさんのことも私は知らない。そう思って俯いていると、彼は暖かい手を私の頬に添えて、私の目をじっと見た。
顔立ちは全然外国の人じゃないのに、瞳の色は凄く綺麗で。その瞳の色に見入っていると、クラルさんはゆっくりと口を開く。




『 …君の名前は、スイ。 』




彼がそう言うことに、あまり違和感を感じなかった。



…私の名前は、スイ。

そして、先程クラルさんの名前を教えてもらった時のように「 スイ 」と言ってみた。
すると、クラルさんはまた優しく笑って頷く。


そのまま腕を引かれて、その洞窟の中を二人で歩いた。
胸下まで伸びた黒い髪がゆらゆらと揺れ、いつの間にか、先程まで濡れていた身体は乾いていて、そのことを不思議に思っていた時。

急に眩しい光に照らされて、思わず目を閉じた。




『 眩しい?今日は晴れだからね。 』




クラルさんはそう言うと、大きな手で私の目に影を作ってくれる。そっと目を開けてみると、飛び込んできたのは見たこともない景色が広がっていた。

真っ青な空の下にあるのは、洋風な建物で。それでいて、沢山緑が生い茂っていて…。
その時ふと頭に浮かんだのは、四角い建物が並ぶ景色だった。そこは、私がかつて住んでいたところなのだろうか。

その景色を思い出してから目の前の景色に目を移すと、全く雰囲気が違う。例えるなら……そう、まるでRPGのゲームに出てくるような、異世界のような。