私のそばにある岩の小さな穴から、静かに真っ青な水が湧き出ている。




まるで、どこかの国の美しい泉のようだった。




見慣れない景色に目を丸くしながら顔を上げると、きっちりとした飾緒(しょくしょ)を着ている男性が目に入る。

きっと彼があの声の主で、私を助けてくれた人だ。
そう思いながら、ライトグリーンの色をした彼の目を見つめていると、そこに一人の少女が映り込んでいることに気が付く。




それはきっと、私だ。


それは分かったものの、自分の名前、生まれてから今までどう生きてきていたのか、その当たり前のことがどうしても思い出せなかった。

今まで感じたことのないような感覚に包まれて、言葉にならない不安を感じる。


…身体が、重たい。




『 …ちょっと待ってね。 』




すると男性はそう言い、少しだけ私の身体を引き寄せ、そっと目を閉じた。

それと同時に、私の身体は彼の瞳と同じ色の綺麗な光に包まれる。魔法のようなものに驚きながらも、私の身体は少しずつ身軽さを取り戻していった。
その光は徐々に霞んで、完全に消えたと同時に私はゆっくりと自分の力で起き上がることが出来た。


自分の身体を見下ろすと、飾緒とは違った、別の制服のようなものを身に付けていて。
しかし、こんな洋服に見覚えはない。制服ということは、私は学生なのだろうか。

そんなことを考えていると、男性はスッと立ち上がり、優しく微笑みながら手を差し出してくれた。
その手を握ってゆっくり立ち上がると、先程よりも景色を見渡すことが出来る。どこを見ても似たような景色で、やっぱりここは洞窟なんだ、ということを改めて感じた。




…ここは、どこ?


そう思って目の前の彼に目をやり、手を握ったままその姿をじっと見つめていると、その人は柔らかく笑った。