ひっくり返ったような声を上げたアルさんの後ろで私も驚く。
 “ここ”はまだビアンカの背の上で、空の上だ。けれどすぐにアルさんもラグと同じ術士であることを思い出す。彼らにとっては別段おかしな会話ではないのだ。

「ここからだったらまだ今日中に戻れるだろう。アイツだとやっぱ少し不安だからな。お前からちゃんと話してくれれば」
「ちょ、酷くね!?」
「何が酷いだ。もう力は十分に回復しただろう。これ以上離れちまったら面倒なのはお前なんだからな」
「そういう意味じゃなくって、俺もお前らについて行く気満々なんだけど!?」
「――は!?」
「え!?」
「!?」

 アルさんのまさかの台詞に3人同時に声を上げていた。

「何だよ皆して~。ここまで乗りかかった船だぜ? ここで俺だけ抜けるとかありえないでしょ!?」
「つかお前ストレッタはどうすんだ!? 生徒がいんだろうが!!」
「それがさ~、やっぱお前がいないとつまんねぇんだよなぁ。ストレッタ全体に覇気がねぇっつーかさ……。ってか俺がいた方が何かと便利だろ? それにほら、」

 アルさんが意味あり気な笑顔でこちらを振り向いた。

「運命の人に出逢っちまったしな」

 その熱い視線の先は勿論セリーン。しかし彼女の視線はわなわなと震える少年に釘付けで、残念ながらその視線が交わることは無かった……。

「ふっざけんな!! 即帰れ! お前がついて来るなんて冗談じゃねーぞ!!」
「またそーやって素直じゃねーなぁ~。嬉しいくせによっ!」

 なぜかそこでまたベシっとラグの頭に容赦ないチョップが入る。
 ラグはまた悲鳴と怒声の混ざった声を上げ、そしてそれはしばらく止みそうになかった。

 ――本当に、アルさんもこの旅に加わることになるのだろうか。

(すっごく明るくなりそうだけど、ラグはきっと大変だろうな……)

 今も怒鳴り続けているラグを見ながら私はこっそり苦笑したのだった。