その言葉に目を見開きセリーンを見下ろす。セリーンは私を見なかった。痛みに顔を顰めながらも男の方を睨み上げ、ただ浅い呼吸を繰り返している。
 床に広がりつつある彼女の血液から目を逸らすように私は男に視線を戻した。男はセリーンを冷たく見下ろしながら言う。

「剣士が剣を持てなくなっては死んだも同然。それにその出血だ。どうせじきに死ぬ」

 “死”という言葉がなぜか酷く遠く聞こえた。

 ……セリーンが、死ぬ?

 まるで夢の中の出来事のように現実味が無かった。でも、その言葉は恐ろしく重く胸に圧し掛かった。

 私は、男の前に一歩踏み出し頭を下げていた。

「……ほう。大人しくついて来るということか?」
「――っ!?」

 セリーンが背後で驚くのがわかった。
 この男の目的は私を連れて行くことだ。セリーンを殺すことではない。私が言うことを聞けばこれ以上この男にセリーンを傷付ける理由はない。
 きっともうすぐ宿にいる誰かがこの食堂に来るはず。早く手当をしてもらえればきっと、セリーンは助かるはずだ。

「よし。ならば行くとしよう」

 男は再び私を軽々と担ぎあげると食堂を出た。そのとき一瞬セリーンと目が合ったけれど、私はどういう顔をしていいかわからなかった。