皆の前で倒れるなんて、情けないことこの上ない。
 この世界に来てから少しは体力が付いたと思っていたのに、そんなこと無かったみたいだ。
 横になっているおかげでかなり楽だったけれど、身体はまだだるく、とても熱い。

「……セリーンは? あ、あとさっきの、アルディートさん、だっけ」
「あいつらなら、今下の食堂だ」
「そっか」

 ――沈黙が訪れる。

 私はブゥの頭を撫で、ラグもそれを静かに見下ろしている。

(きっと、呆れてるんだろうなぁ)

 怒鳴られないのが不思議なくらいだ。
 逆に落ち着かなくて、いっそのこと早く怒鳴ってくれたらいいのにとまで思ってしまう。

(……もしかして、めちゃくちゃ怒ってる?)

 そうだ、ラグは早くストレッタに行きたがっていた。
 出来ればランフォルセの使者よりも早く銀のセイレーンを始末したという報告をしたいと。
 そのためにこうして休む間を惜しんで来たというのに……。

 いよいよ沈黙が怖くなった私はやはり先に早く謝ってしまおうと意を決して口を開く。

「ご、ごめんね、ラグ。私もう平気だから、早くストレッタに」
「……なんでお前が謝んだ」
「え?」
「悪かった」

 私は目を見開く。そして耳を疑った。
 今、ラグの口から出た言葉は間違いなく謝罪の言葉。
 私がポカンと見上げていると、徐々に彼の視線が逸らされていく。

「無理、させちまって……。お前が、その、何の訓練も受けていない普通の女だってことを忘れてた、っつーか」

 言葉を探すように途切れ途切れ話していくラグ。
 そして気付く。彼の顔は真っ赤だ。おそらく熱のある私と同じくらいか、ひょっとしたらそれ以上に――。

「さっきも、あいつに、アルの奴に見つかっちまってイライラして、つい」
「ぷっ」

 思わず、私はそこで噴き出してしまった。