最初に見えたのは木の天井。火があるのかオレンジの光と黒い影とがゆらゆらと揺らめいている。
 やはりさっきはちゃんと目を開けていなかったのだ、だから真っ暗で何も見えなかったのだ。
 そして次に視界に入ったのは自分の手と、もうひとつの――。

「!」

 青い瞳と目が合って一気に覚醒する。

 ……さっきのは全部、夢。

 寒いことと暗いことにあまり変わりは無かったけれど、それでもこちらを見下ろすその瞳の色になぜか酷く安堵した。

「ラグ」
「あ、あぁ」

 小さく名を呼ぶと彼も小さく答えてくれた。
 それだけのことが無性に嬉しくて……。

「何笑ってんだ」

 訝しげに言われて自分が笑っていることに気が付いた。

「怖い、夢……見てたから、なんか安心して」
「…………」

 夢。夢だけれど、もしかしたらあれは――。

「手」
「手? ……あ、ごめん!」

 私はずっと握ったままだったラグの手を慌てて離す。

(あの手、ラグだったんだ)

 悪夢を見て手を握るなんて、まるで小さな子供みたいだ。
 急に恥ずかしくなった私はとりあえず状況を把握するために辺りを見回す。
 枕元に置かれた蝋燭の炎が頼りなく揺れる薄暗い部屋。私はふたつ並んだベッドのひとつに寝かされていた。
 ラグはその傍らの椅子に腰かけている。

「ここどこ? 私……っ」

 起き上がろうとした途端、頭に激痛が走ってもう一度枕に頭をついてしまった。

「ぶぅ?」

 耳元で聞こえた小さなその鳴き声に顔を向けると、心配そうにこちらを見るブゥの円らな瞳があった。
 大丈夫だよと笑いかけながらその小さな耳を撫でるとブゥは気持ちよさそうに目を細めた。

「ブゥが起きてるってことは、もう夜?」
「あぁ。……ここは宿だ。お前、昼間道でぶっ倒れて」
「あ、」

 また頭が痛んだ気がした。