メガネを掛けたその人が私達の前で立ち止まると、ゲっという小さな呻き声が聞こえた。

「ん、どうした? 急におかしな声を出して」

 セリーンは足を止めることなく、その人を完全に無視するかたちでラグを見下ろした。
 これまで黙りこくっていたラグが少しでも反応したことが嬉しいのだろう。
 残った私は慌てて男の人の質問に答える。

「あ、はい。今宿を探してて」

 するとその人は満足げに、にっと笑った。
 セリーンと同じ歳くらいだろうか。素敵なオトナの男性という感じなのに、その笑顔はまるで子供のように無邪気で、思わずこちらも釣られて笑顔になってしまっていた。
 その端正な顔には昔に負ったものなのだろう痛々しい大きな切り傷があって、でもそれがかえってまた彼の男らしさを上げているように思えた。

「そっか! じゃあ俺がオススメの宿を教えてあげるよ。あぁ、俺はアルディートってんだ。よろしくな、可愛いお嬢さん!」