「カノン、本当に平気か?」

 心配そうに声を掛けてくれるセリーン。その腕にはまだしっかりと小さなラグを抱きしめている。
 抵抗するのに疲れたのか、ラグは先ほどからピクリとも動かずに下を向いていた。
 きっとそろそろ元の身体に戻るはずだ。おそらくその時を大人しく待つことにしたのだろう。

「う、うん。でも早く家の中に入りたいなぁって。ラグも急に大きくなったらまずいし」
「そうだな。早速宿をとることにしよう。食堂も一緒のところがいいが、どこか近くで……」

 そう言いながらあたりを見回すセリーン。
 視線が外れたところで私は震えが止まらない自分の体を抱きしめた。
 身体が本格的におかしかった。とても寒いのに、体の芯がとても熱い。

(やだなぁ、もしかして熱出てきた……?)

 町に入って途端に気が緩んでしまったのかもしれない。
 私は背筋を伸ばしもう一度気を引き締めた。
 あと少しの辛抱だ。もう少し頑張ればゆっくり休めるのだから。
 私は前を進むセリーンの背中を見ながら小刻みに震える足を叱咤した。と。

「やぁ、お嬢さん方。ノーヴァは初めて?」

 そんな明るい声に視線を移すと、笑顔でこちらに近寄ってくる男の人がいた。