自己紹介をしながら、彼がベッドの横にあるボタンに触れると、ゆっくりとベッドが起き上がる。自然と上体を起こすような形になって、先程よりもはっきりと二人を見ることが出来た。


緋衣先生に、胡蝶さん。話している言葉も日本語だし、ここは紛れもない日本のはずだ。

とりあえず二人に会釈をすると、緋衣先生はベッドの横に椅子を持ってきて、そこに腰を下ろした。




〔 目覚めたばかりで、まだ頭が混乱していると思うんだけど…。君はね、あと少し遅かったら死んでしまうところだったんだ。身体中に咲いた無数の花もそうだし、栄養失調、脱水症状も起こしていた。今は花を取り除いて、身体に栄養も送ってるから…あと少し安静にしていれば、とりあえず落ち着くと思うよ。 〕




" 死 "


その言葉を聞いた瞬間、ゾクッとした寒気と共に、また身体の中が疼く。

…どうして?
私は、死ぬことが怖いの?




〔 …落ち着いて、大丈夫だから。 〕




平らな包帯がボコボコと膨らみ始めると、緋衣先生は、そっと私の手を握ってそう言った。大丈夫、大丈夫、と、何度も言いながら頭を撫で、それが酷く私の心を落ち着かせてくれたのだ。

カタカタと震えた腕が落ち着きを取り戻すと、胡蝶さんは心配そうに私の顔を覗き込む。すると緋衣先生が再び口を開き、話の続きを始めた。




〔 治療は僕一人で行ったから、この症状は僕と柊空くんしか知らないよ。…きっとその様子じゃ、その症状のことを隠し続けてたんでしょ? 〕

「 ッ…。 」




図星だった。だから、他の人に知られていない、と安心しながらも、私は彼の言葉に頷いた。

唇を噛み締めて俯いていると、胡蝶さんが『 泣かないで 』と、ガーゼが貼られた私の頬を優しく撫でる。
その手は、その言葉の同じくらいに暖かかった。