それから何日が経ったのだろうか。


花を噛みちぎり、川の水を飲み、それでなんとか凌いできた。けれど、時間が経過する度、どうしようもない不安と恐怖に駆られていた。
研究者に見つかったらどうしよう、私はどうされてしまうのだろう。


…ああ、また花が咲いた。

空腹と恐怖で力の入らない身体は震え、呆然とした頭の中で、たった一つの温もりを思い出す。




「 ……(はる)、くん。 」




そして無意識に口にしたのは、私にとって唯一の存在である彼の名前。


輝桜 暒國(きざくら はるくに)

家族ぐるみの付き合いではないものの、幼馴染みである彼とは、小学生の頃からずっと仲良くしていた。
私より二つ上の彼は、将来医師を目指していて、今は頭のいい大学院に通っている大学生。
愛する親も、友達と呼べる存在も居ない私には、彼だけが唯一の救いだった。彼と話している時が一番心が落ち着いて、安心して、花が萎れていくような気がしたんだ。


でも、そんな彼にもこの体質のことが話せないでいた。
どうして話せなかったのか。それは、彼がこのことを知ったら、と、彼のことを疑っているわけではなかった。

暒くんは、とても優しい人だ。

少し冷たく見えてしまうところもあるけれど、私のことは実の妹のようにして可愛がってくれた。だから私も、彼のことを実の兄のように思ってきた。

強引なところもあるし、昔はよく、私が怪我をすると直ぐに心配して駆けつけてくれていたっけ。



…だからこそ、彼には話せなかったんだ。

きっとこの体質のことを話せば、余計な心配を、何より迷惑を掛けてしまう。
暒くんは私と違って、皆の人気者。それに大学だって忙しいだろう。それに比べ、高校を卒業したばかりの私は、ただのフリーター。