「 私の手、握って。手伝うよ。 」

『 え?大丈夫だよ。いつも一人でしてることだ…、 』

「 助けてくれたし、話だって聞いてくれたし、自分のことも沢山教えてくれた。…お礼くらい、させてよ。 」




彼は一瞬戸惑ったものの、嬉しそうに笑って私の手を握ってくれた。
大きな手に力が込められ、なるべく体重をかけないようにしてくれているみたいで。だから「 遠慮しないで。 」と言いながらその手を握り返すと、彼は『 参ったな…ごめんね。 』と、眉を下げながら笑った。

車椅子がギシッと軋むと、彼の身体に反応するようにして、一瞬だけ淡い光を帯びる。
どうやらこの車椅子は、彼のことを認識しているらしい。




『 僕は生まれた時からこの空間で生きてるけど、椿煌ちゃんは違うんだもんね。…昔の景色を、画面越しで見る度に思うんだ。今は随分と冷たくなったな、って。 』

「 冷たい…それ、少しだけ分かるかも。 」

『 今は昔と違って、殆どのことを機械でするようになった。ロボットだったり、AIだったり。それに " 田舎 " なんてものも無くなって、見ての通り、今はこんな建物ばっかり。確かに便利だし暮らしやすいけど…でも、田んぼとか畑とか、山とか…そういう自然が豊かなとこで暮らしてみたかったな…。 』




胡蝶さんはそう言うと、窓に手を当て、寂しそうな目で景色を眺める。
綺麗な横顔はどこか切なくて、伏せられた睫毛が何度か震えた。




『 椿煌ちゃんは…過去に帰りたいって思う? 』

「 …分からない。暒くんには会いたいし、今だって過去の景色が懐かしい。だけど…今過去に戻ったとしたら、絶対に狙われるに決まってる。 」




窓の外を見つめたまま言うと、胡蝶さんは申し訳なさそうに『 …ごめん。 』と呟いた。
どうして彼が謝るんだろう。…本当に心が優しい人なんだな。