あれからそのままアジトへ戻り、いつもの仕事終わりと変わらない時間が過ぎていった。
最後に風呂を出た俺は、そのまま、いつものように自室へと向かう。


…晴雷さん。一体、どうして急にあんなことを言ってきたんだろう。

俺が紅苺さんに抱いている感情は、狂盛さんが言っていたように知っているとは思っていた。けれど、あんなに切なさを帯びた声で、あんなことを言われるとは思わなかったから。
そんなことを考えていると、天井から誰かの足音のような音が聞こえて来る。不思議に思い、今まで入ったことがなかった廊下の奥まで進んだ。
するとそこには更に上へ続く階段があって、あれ?ここ、三階まであったっけ。なんてことを思いながらその階段を登る。



するとその先には、一つの扉があって。


あぁ、屋上か。
そう思いながら、初めてその扉を開けて屋上へ出た。

するとそこに居たのは、黒髪を靡かせながら夜空を見上げる紅苺さん。振り返って俺に気がつくと、微笑みながら『 隣来なよ。 』と言う。
風の冷たさに耐えながら、俺は言われるまま彼女の隣に並んだ。




「 …晴雷さん、怒るんですね。 」

『 うん…。私も初めて見たから、ちょっとびっくりしちゃって。Fairyの誰かが傷つけられたりすると、よくああなるんだ、って、游鬼さんは言ってた。 』




紅苺さんのその言葉を聞いて、あぁそういうことか、と納得をした。
きっと、滴草さんに紅苺さんが傷つけられたことが、彼の怒りに火をつけたのだ。

…あんな晴雷さんは初めて見たから。
いつも柔らかい顔をして、ターゲットに冷たい言葉を吐き捨てる、なんてことはよくあった。口調もいつものように柔らかいままで、心地の良い声をして。

だけど今回は違った。
鋭い目付きに、いつもよりも低く狼が唸るような声。そこから感じられるのは、強い強い殺意だけではなかった。