それに、母さんの為でもある。

それから僕は、徐々に母と仕事を始めるようになった。
初めはただ見ているだけ。それから少しずつ手伝うようになったり、後始末をするようになったり。

そして、始末を任されるようにまでなっていた。


人を殺している時の母は、僕がいつも見てきた " 母さん " ではなかった。
まるで晴れていた空に雲がかかり、雷が鳴り響くような、そんな感じだった。



そして母は、仕事中は 母さん と呼ぶことを禁止した。

仮にも、母さんは腕のいい殺し屋。周りから命を狙われることもあり、親子だとバレるとまずい。
それに、本名なんてもってのほかだった。




…母さんが、仕事で使っている名前は、









晴れに雷と書いて、 " 晴雷(そら) " 。









僕の母でいるの時の顔と、殺しをしている時の顔にぴったりだと思った。だから仕事中は、僕は母さんのことをずっと 晴雷さん と呼んでいた。

僕の名前はどうするの?なんて聞いてみると、母さんは[ 澪のことは、澪って呼ばせて。 ]と、微笑んだんだ。


私の、一人だけの息子だから、と。





初めはどうも慣れなかったし、人を殺すことに対して恐怖を抱いていた。

でも、もう慣れた。どれだけの罪悪感に襲われても、どれだけ自分を殺したくなってしまっても。


母さんは僕を愛してくれているし、僕も母さんを愛してるから。






でも…そんな生活も、終わりを告げた。






仕事を始めてから、丁度二年経った頃だろうか。

季節は夏を目前にした梅雨で、外は濡れたアスファルトの匂いで充満していた。
白濁の空からは、無色の液体がポタポタと地面に降り注ぐ。そしていつものように学校から帰り、家の扉を開けた時だった。










仕事中の、臭いがした。