高校二年の夏、些細なことで父と喧嘩をした。

僕が気を抜いて、あんなことを言ってしまったからだろうか。




「 ねぇ、母さん。愛情って何? 」


[ …泪、 ]




夜ご飯を食べていた時、何となく母に聞いたことだった。

僕が捨てられていた子だということが頭に過ぎったのか、母は僕の名前を呼んで顔を歪ませた。
僕が黙ったままでいると、焦ったように父が口を開く。




[ 母さんや父さんが、お前に注いでいるものだよ。母さんも、もちろん父さんも。お前のことを愛してるから。 ]




そう言った父の笑顔は、嫌気がさす程に優しかった。

心臓のあたりがムカムカして、誰かに鷲掴みにされたように苦しかった。









そう、苦しかったんだ。






初めて抱いた、感情だった。









「 うん、父さんと母さんが僕を愛してくれてるのは知ってるよ。…でもごめん。愛とか愛情とか、理解が出来ないんだ。 」




苦しかったから、そう言ってしまった。

今まで何かのせいにしたことがなかった僕が、初めて自分の抱いた感情を理由に発言をした。
僕の言葉に、父も母も驚いたような顔をしては、どんどんその表情を曇らせる。




[ そんな…理解なんて、出来なくてもいいのよ。泪が愛を理解出来なくても、私達はあなたの事を…、 ]

「 だから僕は、父さんのことも母さんのことも愛したことがないし、これからも愛することはないよ。 」




どうして、沢山の愛を持ったこの二人に拾われてしまったのだろうか。
どうして、沢山の愛情を注いでくれているのに、それが理解出来ないのだろうか。