すると、この後何が起こるか察したようにして、彼女は俺の腕をギュッと掴んだ。


俺も、彼女も、やめようとはしなかった。






俺は、愛を知らないから。
彼女は、愛を忘れてしまったから。






愛に飢えた者同士、必死に愛を求め合った。







「 紗來ちゃん。 」

『 …どうしたんですか? 』




彼女が下、俺が上。

少しだけ息の上がった彼女の名前を呼ぶと、紗來ちゃんは、小さな声でそう答えた。
ゆっくりと顔を近づけて、ピアス一つ開いていない耳にキスを落とす。




「 …名前、呼んで。 」




紗來ちゃんは小さくビクリと身体を震わせると、優しい声で、こう言った。




『 …游鬼、さん。 』




…違う。

これもまた、声に出てしまっていたらしい。



紗來ちゃんには、君には本当の名前で呼んで欲しい。

魅月なんて名前、とっくに捨ててしまったけど。
彼女になら、愛を知らない俺でも、優しく受け入れてくれると思ったから。







「 …魅月。魅月って、呼んで。 」






いつぶりだろう、この名前を口にしたのは。
最後に呼ばれたのは、いつだったっけ。もう思い出せない。

気を抜けば、忘れてしまいそうな名前だった。



ベッドに仰向けになる彼女を見下ろしたまま黙っていると、白く細い腕が首に回ってくる。
弱い力で引き寄せられ、鼻先が触れそうなほどに距離を縮めた。









『 …魅月さん。 』









…ありがとう、紗來ちゃん。

一瞬だけ。本当に少しだけだけど、その名前が好きになれたよ。
本当の愛なんて知らないけど、今までよりも濃い愛情を知れたような気がしたし、それが抱けたような気がした。



俺が笑うと、彼女もそっと笑った。









あぁ、いつか。

いつか、本当に愛を知ることが出来ますように。









そう願いながら、俺は彼女と身体を重ねた。