" 父さん "
俺は、親をそう呼ぶことすら許されなかった。
昼は酒を浴びるほど飲み、夜は街に繰り出してギャンブルをしては借金を作りの繰り返し。
毎晩のように知らない女を家に連れ込んでは、愛のない性行為を繰り返す。
" 愛してるよ "
女を連れ込んでは、そんな言葉を吐いていた父親。
母親の顔は知らない。というか、思い出せない。
確か、俺が幼稚園の頃に家を出て行ったのは覚えてる。
けど、どうしても。
思い出そうとすればするほど、記憶にのこる母親の顔はぼやけていくだけだ。
母親が出て行った原因なんかとっくに知ってる。父親に愛想をつかせて、俺のことを捨てたんだ。
_____ ガンガンッ。
…ほら、また今日も来た。
[ 透夜さーん、いるのは分かってるんですよ。まだお金は用意できてないんですか? ]
低く、ドスの効いた男の声。
借金取りの男だ。
この時間に父親はいないし、もちろん、こんな家に金があるわけがない。
毎日毎日、布団の中で息を殺して、朝が来るのを待った。
ただ独りで震えて、耐えることしか出来なかった。