全員がすれ違ってしまった夜の、翌日の夕方。




「 紅苺、烏禅。今日の仕事は無くなったから。 」

「 え?そんな急にですか? 」




いつものようにスマホゲームを広げる烏禅と、ソファーに座って化粧道具を揃えている游鬼の隣に座る紅苺は、晴雷のその言葉によって動きを止めた。



仕事が無くなった。

つまり、残り少なくなった今日一日は、暇になったということだ。
晴雷は「 うん。だから今日はゆっくり休みな。 」と続け、特にパソコンをいじることもせずに、コーヒーを一口だけ飲み込んだ。


まだゲームをやめなくて済んだからなのか、烏禅はほっとしたようにして晴雷に返事をし、再び携帯の画面に視線を移す。
紅苺は游鬼と一緒に化粧道具を片付け、狂盛はパソコンと向き合っていた。






「 …ねぇ皆。今日さ、僕の部屋で寝ない? 」






するとそんな時、再び晴雷が口を開いた。

烏禅はまた携帯の画面から目を離し、狂盛も同じようにしてパソコンから目を離し、晴雷を見つめる。
紅苺と游鬼が「 え? 」と声を合わせながら聞けば、晴雷は少しだけ微笑んだ。




「 ほら、たまにはいいじゃん。僕ら、家族みたいなもんなんだし。 」

「 私は大丈夫ですよ。游鬼さんは? 」

「 あー…うん、別にいいけど。 」




晴雷の言葉に紅苺が答えれば、游鬼は一瞬だけ狂盛を見て、不服そうにしながらもそう答えた。
烏禅と狂盛も頷けば、晴雷は「 じゃあ決まりね。敷き布団、運んどくから。 」と言い、にっこりと笑う。


晴雷は " 家族みたいなもの " だと言った。

けれど本当は、" 家族になりたかった " のではないだろうか。




…この時、誰かが異変に気が付いていれば。