僕は、どうしてこんなにも真っ直ぐな子を拾ってしまったんだろう。
本当は僕が皆を愛し、愛を教えてあげなければいけないのに。

零れそうになる涙をこらえながら、笑って烏禅の髪をワシャワシャと撫でた。すると烏禅は『 なんですか? 』と、今度は柔らかく笑う。


その髪からゆっくりと手を離すと、その顔から笑顔が消えた。




『 …せめて、俺からの愛は信じてくださいね。 』

「 ……うん。ありがとう、翔湊。 」




その言葉に、少しだけ救われた気がした。


母さんがくれた " 澪 " の名前も、母さんから借りた " 晴雷 " の名前も。二つとも確かに僕の胸に残したまま、これから皆のことを、愛そうと思った。

母さんがしてくれたように、僕も皆に愛を注ぎたい、愛を教えてあげたい。
これから、また0から始めようかな、と。
また最初からみんなのことを愛して、新しく変わろうかな、と。




…だけど。







『 俺…今、十分幸せですよ。 』







…どうして僕は、翔湊にそんな嘘を言わせてしまうんだろう。

僕に気を使ってくれたのかもしれない。
だけど、その優しさが今はどうしようもなく苦しかった。


幸せだなんて、どうしてそんな嘘を。
どうして、そんな柔らかい顔で、そんな嘘を。




「 …なら、よかった。 」









…もう。


僕達が、戻ることなんて。初めから、やり直すことなんて。

最初から、無理だったんだ。