仕事を終えて、そのままアジトへ帰っていた。
今日は始末の仕事ではなかったから、汚れてはいない。
久しぶりに渢さんから〔 仕事だ! 〕なんて言われたものの、ただお喋りに付き合わされただけだった。
〔 烏禅くん、いい子だね。 〕
渢さんは、確かにそう言っていた。
きっと僕らが留守にしている時、アジトに来て、烏禅と話をしていたんだろう。どんな話をしたかまでは知らないけど、その言葉だけで何となく分かったような気がした。
明日の予定はないし、帰ったら久しぶりに麦酒でも飲もうかな。そんなことを考えながら車から降りて、アジトの中へと入る。
すると、まだリビングに明かりがついていた。
そこから異様な雰囲気を感じて、僕は気配を消して、そっとリビングを覗いた。
『 ごめん、紗來。 』
『 …謝らないで。 』
そこに居たのは、狂盛と紅苺で。
狂盛が紅苺を抱きしめているという、異様な光景だった。すると狂盛が目を閉じた瞬間、そこから涙が零れ落ちて。
驚いて、思わず、その光景から目が離せなかった。
『 ごめん、ごめん。 』
狂盛は…いや。泪は、何度も何度も紅苺に謝っていた。
謝る理由は何となく分かるし、困っている紅苺の気持ちも分かる。
ここは二人だけにしておこう。
そう思って、足音を立てないように二階へ向かった。
微かに聞こえる泣き声に、それと同時に感じるもどかしさ、苦しさ。部屋に入ってベッドに寝転ぶも、どうも寝心地が悪い。
こういう時は、屋上へ行って月でも見よう。
そう思って、屋上へ足を運んだ。
「 …眠れないの? 」
屋上には既に先約がいたらしく、僕は真っ黒な背中にそう聞いた。
そいつはゆっくりと振り返ると、弱々しい笑顔で『 …はい。 』と言う。