おずおずと顔を上げると、三谷くんは真っすぐな瞳で私を見つめた。

そうして、静かに私の名前を呼んだ――。


「聡美」


瞬間、どきんと心臓がはねた。

びっくりしすぎて、息が止まったかと思うくらい。


(でも、なんか……)


三谷くんはというと、何やら「うーむ」と首を傾げて考えこんじゃうし。


(どうしよう、この状況……)


とても真剣な様子で思案中の三谷くん。

判決やら審判だのを待つみたいに、彼の言葉をじっと待つ。

瀬野ちゃんなら「キャーッ!」って手放し大喜びするんだろうな、きっと。

でも、私は……。


「僕は――」


少し間があって、三谷くんはおもむろに言った。


「ないかな」

「えっ……」

「ないかな、呼び捨ては。うん」


自身に確かめるような口調で言いながら、三谷くんは確信をもったように頷いた。

なんだろう、なんだろう、なんだろう???


(私、なんかちょっと……嬉しいみたい?)


呼び捨てにされるのが嫌だとか、決してそういうわけじゃない。

でも、呼び捨てにされたかったわけでもない。

だって、私たちには“しっくりこない”感じがして……。

今日、手をつないで「あれ?」っと思ったとき――。

彼が同じように感じていたことが、とても嬉しかった。

そういう感覚ってすごく大事だなって。

うまく言えないけど、そんな気がするから。

だから、嬉しくて。

どこか、ほっとした。


「あっ。ごめん、ひょっとして、呼び捨てで呼んで欲しかった???」

「そ、そういうわけじゃないのっ。ほんと、ぜんぜん違くてっ」