「父親がね、僕に賃金を支払うべきだと言い出したんだよ」
「お父さんが?」
「そう。でも、母親は“諒は家事にやりがいを感じてやってるんだからいいのよ”だの、“家事スキルが身に付くのは本人のためにもなるし”だの、そういうことを言ったわけ」
「そしたら?」
「“それはやりがいの搾取だ”と父親が反論して。“諒のおかけで我々は好きな仕事に没頭できて余暇を楽しむこともできるのだから。正当な報酬を支払うべきだ”とかさらに言って」
「お父さんは三谷くんの味方?」
「まあ、そういうところはあるかもね」
「それで?」
「あとはお決まりのいつも夫婦喧嘩」
“いつもの”って、そんな……。
私は心配しながら慎重に聞いてみた。
「ご両親、その……ケンカとかよくするの?」
「まあね。母親は感情的になりやすい人で。父親は理論派というか、すごい冷静なタイプで。口論というか議論というか。けっこう派手にやらかすね」
「そうなんだ……」
そういうのって、子どもとしてはすごく辛いんじゃ……。
「あ、決して仲が悪いわけじゃないんだよ」
「え?」
「むしろ、息子の僕が恥ずかしくなるくらい仲がいいかも」
「そうなの?」
「いちいち派手なんだよね。ケンカにしても愛情表現にしてもさ」
三谷くんはコーヒーを飲んでから「困ったもんだよ」と苦笑いした。
「だから、気にしないで」
「えっ……」
「溝口さんが心配するような悲しいことはないから。大丈夫だよ」
(三谷くん……)
もう、ドがつくほどの鈍感だなんて大嘘なんだから。
三谷くん以上に繊細な人、私は知らないもの。
「そりゃあ子どもの頃はよくわからなかったから、本気で心配したりもしたよ。けど、今はもうぜんぜん。本当、夫婦喧嘩は犬も食わない」
「そうなんだ」
「たぶんね、あの人たちは口喧嘩が好きなんだよ。商売柄、ふたりとも弁が立つというのもあるし」
商売柄???
お家のことをどこまで聞いていいのかわからないけど、私は遠慮がちにたずねてみた。
「三谷くんのご両親のお仕事って何関係なの?」
「うち? うちは二人とも教員だよ」
「えっ。先生なの!?」
「うん。大学教員だよ」
「ええっ。大学の!?」
びっくりしたけど、意外ではないような???
なんだか思いがけず、三谷くんのお家のことをたくさん知ってしまった気がした。
「お父さんが?」
「そう。でも、母親は“諒は家事にやりがいを感じてやってるんだからいいのよ”だの、“家事スキルが身に付くのは本人のためにもなるし”だの、そういうことを言ったわけ」
「そしたら?」
「“それはやりがいの搾取だ”と父親が反論して。“諒のおかけで我々は好きな仕事に没頭できて余暇を楽しむこともできるのだから。正当な報酬を支払うべきだ”とかさらに言って」
「お父さんは三谷くんの味方?」
「まあ、そういうところはあるかもね」
「それで?」
「あとはお決まりのいつも夫婦喧嘩」
“いつもの”って、そんな……。
私は心配しながら慎重に聞いてみた。
「ご両親、その……ケンカとかよくするの?」
「まあね。母親は感情的になりやすい人で。父親は理論派というか、すごい冷静なタイプで。口論というか議論というか。けっこう派手にやらかすね」
「そうなんだ……」
そういうのって、子どもとしてはすごく辛いんじゃ……。
「あ、決して仲が悪いわけじゃないんだよ」
「え?」
「むしろ、息子の僕が恥ずかしくなるくらい仲がいいかも」
「そうなの?」
「いちいち派手なんだよね。ケンカにしても愛情表現にしてもさ」
三谷くんはコーヒーを飲んでから「困ったもんだよ」と苦笑いした。
「だから、気にしないで」
「えっ……」
「溝口さんが心配するような悲しいことはないから。大丈夫だよ」
(三谷くん……)
もう、ドがつくほどの鈍感だなんて大嘘なんだから。
三谷くん以上に繊細な人、私は知らないもの。
「そりゃあ子どもの頃はよくわからなかったから、本気で心配したりもしたよ。けど、今はもうぜんぜん。本当、夫婦喧嘩は犬も食わない」
「そうなんだ」
「たぶんね、あの人たちは口喧嘩が好きなんだよ。商売柄、ふたりとも弁が立つというのもあるし」
商売柄???
お家のことをどこまで聞いていいのかわからないけど、私は遠慮がちにたずねてみた。
「三谷くんのご両親のお仕事って何関係なの?」
「うち? うちは二人とも教員だよ」
「えっ。先生なの!?」
「うん。大学教員だよ」
「ええっ。大学の!?」
びっくりしたけど、意外ではないような???
なんだか思いがけず、三谷くんのお家のことをたくさん知ってしまった気がした。



