優等生の恋愛事情

私を困らせて照れまくる姿を見てやろうとか? そういう魂胆なんて微塵もないんだもの。

だからいっそう困ってしまう。


「……慣れるとか無理だし」

「だんだんと、ね」


本当、慣れる日なんてくるのかな???

嬉し恥ずかしで、どんな顔していいかわからない。

私はハニーチュロをぱくりと齧ると、もぐもぐ食べることに集中した。

三谷くんは、そんな私をやっぱり嬉しそうに見ながら「いただきまーす」と言って、アップルパイに手をつけた。


(あれ? そういえば……何か話の途中だったような……?)


「あ、さっきの話!で、勤労学生って何なの?」

「ああ、その話ね」


(三谷くん、私が聞かなきゃ忘れてスルーしてたんじゃ……)


「僕って我が家のハウスキーパーなんだよ」

「ハウスキーパー???」

「そう。家事代行業みたいな?」

「自分のお家のことをやってお金がもらえるということ?」

「なんかヘンだよね」

「ヘン、かどうかはわからないけど……」


小学生がお手伝いしてお小遣いをもらうのとは事情が違うのだろうけど、じゃあどんな事情が???


「家族なんだから家事はやって当たり前。そこに賃金が発生するのかという疑問、だよね?」

「ええと、まあ……」

「僕の両親は、いわゆる仕事人間みたいな人たちでね。僕は祖母に育てられたようなものなんだよ」


三谷くんのお家の話を聞くのは初めてだった。

多忙なご両親にかわって三谷くんの世話をしてくれたのは専らお祖母さんだったこと。

そういう家庭環境もあって、子どもの頃からずっと習い事をいくつもしていたこと。

家事のあれこれは、すべてお祖母さんから教わったこと。

三谷くんが中学へ上がると同時にお祖母さんが家を出たこと。

それ以来、家事は三谷くんがやるようになったこと。

そして――その状況について、ご両親が夫婦で揉めたこと。