優等生の恋愛事情

お皿の上にモリモリにのせられたパイやドーナツと、おかわり自由が嬉しいブレンドコーヒーがふたつ。

席へ落ち着くとすぐ、私はお財布を出した。

会計を一緒に済ませてもらっちゃったから、自分のぶんは出さなきゃと思って。

でも……。


「いいよ。僕がつき合わせちゃったんだし」


まえにも同じようなことを言われたことがあったっけ。

三谷くんが私に気持ちを伝えてくれた日だったよね。


「つき合わされてるわけじゃないもん」


私はちょっとむきになって言った。

だって、私は一緒にいたいからいるのに。

それに、お互いに高校生だし。

どちらかが社会人なら違うのかもしれないけど。

そういうわけじゃないし。

女のコは奢ってもらって当たりまえとも思わないし。

すると、三谷くんはにっこり笑って言った。


「じゃあ、今度からは割り勘で」

「でもっ……」

「僕、勤労学生だし」

「へ?」


(キンロウガクセイ???)


聞きなれない言葉に、頭がぽかんとする私。


「それって、バイトとかしてるってこと?」

「労働して対価を得てはいるけど。普通のバイトとは少し違うかな」

「なんか、よくわからないのだけど……」

「まあまあ。とりえあず食べようよ」


そうだ、三谷くんはお腹ペコペコなんだった。


「いただきます」


私は両手を合わせてから、ハニーチュロを手に取った。

なんとなく視線を感じて顔を上げると、三谷くんがニコニコして私を見てた。


(え、えーとっ……)


「そういうの、いいよね」

「え?」

「“いただきます”って」


(え? え?? え???)


「可愛い」

「……っ」


三谷くんは「慣れて」と言ったけど、そう簡単にはいかないよっっ。


「み、みんな言うよ? いただきますって」

「ちゃんと言わない人もいるでしょ?」

「そんな……フツーだよ」

「フツーじゃなく可愛いよ?」