優等生の恋愛事情

待ち合わせ場所は前と同じ本屋さんで、三谷くんはやっぱり学参コーナーにいた。

英熟語集をモーレツな(?)集中力で見ている三谷くん。

前に言ってた“話しかけんなオーラ”って、たぶんこれのこと?

私は近くまで寄ったけど声はかけず、しばらくじっと待ってみた。

別に遠慮したわけじゃない。

話しかけづらくて躊躇してるでもない。

ただ、こうしていたらいつ気づくのかなぁと思って。

ちょっとした悪戯心、みたいな?

けど、三谷くんってばぜんぜん気づかないんだもん。

私はしばらく彼の集中力と熟読ぶりを観察することになった。


(それにしても、キレイな横顔だな)


“端正”とか“理知的”という言葉は、こういう容姿をさして使うのだ。

基本、いつまででも見ていられる。

でも、やっぱりそろそろ気づいて欲しい。

しょーがないから声をかけようとしたとき、彼がちょうど熟語集を閉じて棚に戻した。

そうして、ようやく私の存在に気づいたのだけど――。


「…………ええっ!」


三谷くん、その第一声までの微妙な間はいったい……。

彼はやっぱりちょっと天然な人だと思う。


「ごめん。僕、ぜんぜん気づかなかった」

「気にしないで」

「話しかけづらかったよね」

「ううん。別に遠慮してたとかじゃないよ」

「そうなの?」

「うん。いつ気づくか観察してみようと思っただけ」


しれっと言うと、三谷くんは決まり悪そうに苦笑した。


「で、僕はぜんぜん気づかなかったわけだ」

「気がついたでしょ? 私が声をかけるまえに」

「優しいなぁ、溝口さんは」


声をかけずに黙って見ていた私って“人が悪い”とも思うけど。

そういう私を“優しい”なんて、三谷くんこそ優しすぎるよ。