高校へ入ってからは、男の子と普通に気楽に接している。

教室の中で隣の席の男の子と雑談することもあるし。

とくにうちの学校は、男女関係なくみんな仲良しみたいな雰囲気があるから。

澤君は大事な友達。

優しくて頼りがいのある友達。

そして、澤君は男の子。

でも、こうして隣にいてもドキドキはしない。

居心地はいいけど、ドキドキはしない。

三谷くんとつき合うまで意識したことがなかったけど、こんなに違うんだ。

なんていうか、ここは自分の場所じゃないってわかる感じ?


「今、彼くんのこと考えてただろ?」

「ええっ」


もう、澤君てばいちいち言い当てないでよ。


「三谷氏のことで頭がいっぱいの溝ちゃんなのであった」

「ああそうですよ。自分だって」


私はちょっとふてくされて開き直った。

だって、照れてるのが恥ずかしくてもう……。


「そのとおり。俺も彼女のことで頭がいっぱいなのであった」

「もう、なんかなぁ」


私たちは「どうしようもねぇなぁ」と二人して笑った。


「名前のこと、溝ちゃんから話してやんなよ」

「“男友達からのお願い”?」

「そゆこと。男ってそういうのに疎かったりするから。ほら、瀬野ちゃんの彼くん……八代(やしろ)氏みたいに?」

「わかったよ」


まえにもこんなふうに、澤君が背中を押してくれたことがあったね。


「んじゃ、デート頑張れよー」

「もう!そういう“頑張れ”はおかしいって、今日の英会話で習ったばっかじゃん」


私がわざと偉そうにたしなめると、澤君は「へいへい」とおどけて笑ってみせた。


「じゃあ仕切り直し」

「うん」

「“Take it easy. ”」

「“You, too. Bye. ”」